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AVP研究会 海外研究室便りNo.18 2020年2月寄稿

 私は2018年4月から、アメリカ合衆国のメリーランド州ベセスダにあるNational Institutes of Health (NIH)で学んでいます。NIHはアメリカ政府の内閣機関であるUnited States Department of Health and Human Servicesの下にあり、合計で27の研究所とセンターで構成されている医学研究の拠点機関です。私はそのうちのひとつであるNational Institute of Child Health and Human Development (NICHD)に所属しており、Stanko S. Stojilkovic博士の研究室であるSection on Cellular Signalingで研究を行っています。
 こちらの研究室では生体の主要な内分泌器官のひとつである下垂体、特に下垂体前葉に焦点を当てた研究を行っています。下垂体前葉において合成・分泌されるホルモンは性成熟や成長をはじめとして、体の発達や健康の維持に重要なホルモンです。私たちはこれらのホルモンの合成・分泌についてのメカニズムを、アゴニストやアンタゴニストといった薬物や、ノックアウトマウス、初代培養細胞を用いた研究を中心にして解明していこうとしています。現在、私は性腺刺激ホルモン産生細胞に着目し、表現系が不妊となるノックアウトマウスを用いた研究を行っています。
 研究室には現在、私を含めて5人のポスドクが所属していますが、母国語が英語である人はひとりもおりません。そして、それぞれのポスドクの国籍は様々で、国際色豊かな研究室になっています。ポスドクは皆、協力的で気さくな方々で、実験の話はもちろんのこと、雑談や冗談もよく話します。私たちが会話をする際にはもちろん英語を使用しますが、母国語が違う者同士でもコミュニケーションをとることができる英語の利便性には改めて驚かされます。
 研究環境は申し分なく、それぞれのポスドクには作業するのに十分な大きさの実験台と事務仕事用の机が与えられています。研究設備は新しいものから年代物まで色々とありますが、どれも良く整備されており、使い勝手の良いものばかりです。また、動物施設には多くのテクニシャンの方々が勤務されており、動物の健康管理をしてくださるので大変助かっています。他の研究室との共同研究もNIH内外を問わず、盛んに行われています。特にNIHの中だけでも十分なコラボレーションができる点は、試料の受け渡しや情報交換の面では非常に重宝します。さらに、NIHでは研究面や職場環境における倫理観に対する教育も熱心に行われており、研究方法だけでなく研究者としてのあり方についても深く学ぶことができます。
 NIHは研究者に上記のような研究の場を提供するだけでなく、リラクゼーションの場も提供してくれています。その例として、オーケストラやバンドの演奏会やフリーマーケットといったイベントが定期的に開催されています。また、NIH構内の豊かな自然もその一つです。春には桜が咲き、夏には蝉の声が聞こえ、秋には紅葉が彩り、冬は雪化粧と、四季の変化を楽しむことができます。さらに、構内には野生動物も多く生息しており、ウサギやリス、シカ、多くの野鳥に出会えることもリラクゼーションになります。
 このような研究に専念する環境が整った場所で学ぶことができることを、大変ありがたく思います。また、海外留学を通じて、より様々な人々に出会うことができました。言語や文化の違う人々との交流により自分の知らない世界を知ることが出来るのは、研究面だけではなく、日常においても刺激的です。この留学期間中に、より多くのことを様々な面で学ぶことができるよう、1日1日を大切に過ごしたいと思います。
 最後になりましたが、このような充実した貴重な海外留学の機会を与えてくださいましたすべての方々、特に、自治医科大学の輿水崇鏡教授、そして、Stanko S. Stojilkovic博士に深く感謝申し上げます。

(写真:研究室の仲間と研究室で撮影したもので、1番右がStanko S. Stojilkovic博士で、隣が筆者です。)


持丸雄太 (NICHD, Section on Cellular Signaling)