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AVP研究会 海外研究室便りNo.17 2018年11月寄稿

 2018年4月より英国ブリストル大学医学部トランスレーショナルヘルスサイエンス講座の、Stafford Lightman教授の下で研究をさせていただいております。実は、私の日本における指導者である産業医科大学医学部第1生理学の上田陽一教授も、かつてStafford教授に師事しておられました。Stafford教授は、視床下部−下垂体−副腎(HPA)軸の研究に精力を捧げてこられた、同分野におけるワールドリーダーの一人です。Stafford教授の研究室は、糖質コルチコイドのダイナミクス、特に糖質コルチコイドのサーカディアンリズム(概日リズム)およびウルトラディアンリズム(概潮汐リズム)による生体恒常性の維持に着目した研究を行っています。基礎研究のみならず、臨床研究や橋渡し研究を同一研究室内で行っていることも大きな特徴です。研究室内には基礎研究者、臨床研究者、医師、数学者、大学院生などを含めて約20人が在籍し、各々が専門性を発揮しています。素晴らしい指導者や同僚に恵まれ、彼らの専門的知識を統合し咀嚼し得る立場にあることは非常に幸運だったと言えます。
 彼らは、自動血液サンプリングシステム(Automated Blood Sampling:ABS)という非常にユニークなシステムを有しており、血中糖質コルチコイドの動態を10分間隔で解析することができます。これにより、ラットやヒトで糖質コルチコイドが一日を通じて10-20分間隔でパルス状に分泌されていることが解明されています。
 私は、大学院生の頃から一貫して摂食調節の生理学に興味を持ち研究を行ってきましたので、ここブリストルでも摂食調節に着目した研究を行っています。具体的には、ラットのABSから得られたデータを元に注入ポンプのプログラミングを行い、コルチコステロン注入パターンを変化させることによって摂食パターンが変化することが明らかとなりつつあります。現在、コルチコステロンによる摂食調節とその破綻に焦点を当て研究に取り組んでいます。
 かつて貿易港として栄えたブリストルは、人口約50万人のサウスウエストイングランドにおける中核都市です。私は、ブリストル市内のクリフトンという地域に住んでいます。ブリストル市内の治安は(一部を除いて)非常に良く、ブリストル博物館、SSグレートブリテン号、クリフトン大吊橋など見所がたくさんあります。芸術の街としても知られ、謎につつまれたストリートアーティストのBanksyの出身地でもあります(興味がある方は調べてみてください)。首都のロンドンからはバスや電車で約2-3時間の距離で、ブリストル空港からは英国内やヨーロッパ内にたくさんの便が飛んでおり、いろいろな場所へのアクセスは良好です。あくまで個人的な感想ですが、ブリストル市内に日本人は少ない印象です。私の知る限り、ブリストル大学における神経科学領域の研究者は、現在私を含めて2人しかいません。その方には公私ともども大変お世話になりましたが、もうすぐ任期を終えて帰国されます。一期一会とはよく言ったものですが、このような出会いも海外留学における貴重な経験の一つではないでしょうか。
 ブリストルの気温は、私の出身地の九州よりも年間を通して概ね低いのですが、冬季でも氷点下になることは少なく、降雪はほとんどありません。年間を通じて、大雨は滅多にありませんが曇りや小雨の日が多く、防水グッズが非常に役立ちます。英国は高緯度に位置し、サマータイム制度も相まって夏季は非常に日が長いです。冬季は逆で、天候にもよりますが、外が明るい時間は概ね8時から16時です。定時で帰宅する時も、外は真っ暗になっています。
 海外での研究を通じて、新たな知識の吸収や統合と同様に、研究ネットワークの構築も非常に大切であることを再認識させられております。現在の英国における研究に邁進することは勿論、帰国後の研究内容をイメージしつつ「自分には何ができるのか、何をすべきか」を常に考え、残された留学期間を有意義に過ごすべく奮励したいと考えております。最後に、このような貴重な海外留学の機会を与えてくださいました産業医科大学医学部第1生理学の上田陽一教授に心より感謝申し上げます。

(写真は、Stafford Lightman教授(左)、直属の上司であるBecky Conway-Campbell博士(右)と筆者(中央)です。)


吉村充弘 (産業医科大学 医学部 第1生理学)