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海外研究室便りNo.19

(写真:中央が筆者、その左隣がカウリー教授です。)

 私は2018年より、米国ウィスコンシン州にあるウィスコンシン医科大学の生理学分野で、アレン・カウリー教授の元でポスドクとして研究をしております。カウリー教授は長年に渡って腎臓生理学研究の世界的な第一人者であり、体液恒常性を維持するメカニズムに特に関心を持ち、正常状態と高血圧状態で血圧を制御する生理学的およびゲノム学的機構についての研究をされてきました。その研究の中でカウリー教授は血圧の調節における圧受容器反射、レニン-アンジオテンシン系、バソプレシンの役割に関連した重要な発見をしました。さらに、血圧の制御における腎髄質循環の重要性を明らかにしてきました。また、システムレベルの生理学とゲノムを結びつけ、現在「生理学的ゲノミクス」と呼ばれる分野の先駆者でもあります。最近では、ゲノム情報発現過程の下流にあるメタボロームと生理学の融合を精力的に行っています。

 私自身も東北大学大学院在学中から腎生理学に興味を持ち、より深く研究をするためにカウリー教授の元に参りました。渡米してからの研究は多岐に渡りますが、生理学の古典的な手法(ラットにおける観血的血圧測定など)を軸に、さらにその手法を発展させ困難な問題を解決してきました。最近ではカテーテルを用いて自由に動き回るラットから腎静脈血を繰り返し採血する技術を確立し、腎動静脈血間の酸素、メタボロームの差から正常血圧下での腎臓における酸素、物質の代謝ついて明らかにしました。現在は高血圧条件下での変化について調べています。

 ウィスコンシン医科大学はミルウォーキー市西側の郊外に位置し、フロエッドタート病院とチルドレンズウィスコンシン病院が併設されています。ミルウォーキーのスーパーでは日本の食材は手に入りづらいですが、シカゴまで車で約90分ですし、オンラインショッピングで何でも手に入るので、不自由は感じません。想像と異なり、治安は良好で、店や公園、図書館などに子どもたちと歩いていっても恐怖を感じたことはありません。大学では最近リノベーションが行われ、オープンラボとなりました。その結果、他の研究者との交流も活発となり、良い効果をもたらしているように思います。オープンラボではありますが各ラボ、各研究者毎に実験スペースやオフィススペースは十分に与えられており、不自由することはありません。研究者は世界中から集まってきているため、定期的に行われるポットラックでは世界各国の料理が持ち寄られ、国際色豊かな会となります。

 コロナ禍では中断されていましたが、現在ではポスドクオフィスが様々な行事を再開してくれており、ポスドク同士の交流は生理学分野内に留まらず、全学で行われます。グラント作成や論文作成の指導体制も充実おり、これらは研究者として学ばなくてはならない必須の能力ですので、大変勉強になります。学内での学術的な会議の他、家族同伴での野球観戦(ブリュワーズの本拠地が近くにあります)や、動物園でのピクニックなども主催してくれています。また、最近ポスドクメンバーが中心になってオーケストラが最近立ち上がり、職員、学生も含めてMCWオーケストラとしての活動も開始されるなど、研究以外の面でも充実したポスドク生活を送ることができています。

 このような充実した研究生活を送ることができるのは、カウリー教授に紹介していただいた森建文教授と、伊藤貞嘉名誉教授のおかげです。末尾ではありますが、ここに感謝の意を表します。


島田佐登志(ウィスコンシン医科大学)