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Polycystin-1の糖鎖と細胞内局在の異常がAQP11ノックアウトマウスの嚢胞腎形成を引き起こす

井上佑一1)、蘇原映誠1)、小林克樹2)、頼建光1)、石橋賢一3)、堀江重郎4)、内田信一1)
佐々木成1)

1)東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 腎臓内科学
2)千葉東病院 臨床研究センター遺伝子解析・診断研究室
3)明治薬科大学 病態生理学
4)順天堂大学 泌尿器科学

【目的】
AQP11(-/-)マウスは、多発性嚢胞腎を呈し、腎不全と成長障害により早期に死亡する事が報告されているが、その嚢胞腎形成メカニズムは不明である。その理由の1つとして、内因性のAQP11を検出する良い抗体が存在しない事が挙げられる。そこで、本研究では、まず3×HA Tagの付いたAQP11を発現するBACトランスジェニックマウス(TgAQP11)を作成し、 AQP11の生体内での局在を明らかにし、さらには、Polycystinなどの嚢胞腎原因蛋白を検討し、 AQP11(-/-)マウスの嚢胞腎形成メカニズムを明らかにする事を目的とした。

【方法】
まず、N末端に3×HA配列の付いたAQP11遺伝子配列を含むBAC constructを用いて、AQP11 BAC トランスジェニックマウスを作成し、腎臓の免疫染色やウエスタンブロッティングにより、AQP11の局在を確認した。続いて、AQP11(-/-)マウスの嚢胞形成メカニズムを解析する為に、AQP11(-/-)マウス腎臓を、PC-1、2に焦点を当てて解析した。まずPC-1、2の量や質などの検討をするために、PC-1,2の抗体を用いてウェスタンブロッテイングを行った。PC-1や2の細胞内局在の検討には、密度勾配分画法や生体内蛋白ビオチン化法を用いた。さらには、Pkd1(+/-)AQP11(-/-)マウスを作成する事で、AQP11(-/-)マウスの嚢胞腎が悪化するかを検討した。

【結果】
まず、AQP11BACトランスジェニックマウスの解析より、生体内においてAQP11が近位尿細管細胞の小胞体に存在する事を示した。そこで我々は、AQP11(-/-)マウスでは、近位尿細管の小胞体機能異常によって、polycystinなど嚢胞腎の原因蛋白の品質管理や、細胞膜への輸送に異常が起きている可能性を検討した。AQP11(-/-)マウス腎臓において、polycystin-1 (PC-1)の量は増え、polycystin-2 (PC-2)の量は減っていた。さらにAQP11(-/-)マウス腎臓においては、PC-1蛋白のサイズが野生型マウスよりも大きく、その違いがPNGaseの脱糖鎖反応によって消失した事から、糖鎖異常によるものである事が明らかになった。さらに、マウス腎臓の密度勾配分画法を行ってPC-1蛋白の細胞内局在を評価した所、AQP11(-/-)マウス腎臓ではPC-1蛋白の細胞膜での発現が減少しており、生体内蛋白ビオチン化でも同様の結果が得られた。加えて、Pkd1(+/-)AQP11(-/-)マウスはAQP11(-/-)に比して重度の嚢胞腎を呈した。

【考察】
PC-1の糖鎖と細胞膜輸送の異常、それに伴うPC-1の機能低下がAQP11(-/-)マウスの嚢胞形成の主要な機序であることが示唆された。小胞体におけるAQP11の真の機能は未だ明らかになっていないが、今回の研究結果から、AQP11は、小胞体の生理的恒常性維持に重要な役割を果たしており、AQP11が無い事が、小胞体の機能不全につながる事が示唆された。