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魚類におけるナトリウム利尿ペプチドの心臓形成および浸透圧調節作用

○宮西弘1、2)、大久保範聡1)、金子豊二1)、竹井祥郎2)

1)東京大学・大学院農学生命科学研究科・水族生理
2)東京大学・大気海洋研究所・生理学

【目的】
ナトリウム利尿ペプチド(NP)ファミリーは脊椎動物で、循環調節・体液調節に重要なホルモンである。本研究では、ノックダウンの手法が確立しており、塩分耐性に優れたメダカの利点を利用し、先行研究により心臓で発現し、海水適応に関わることが示唆されている、BNPとCNP3の機能をノックダウンにより明らかにすることを目的とした。

【方法】
1) ノックダウンを行う発生段階におけるNPの発現変化および発現部位をreal-time 定量PCRおよびin situ ハイブリダイゼーションで同定した。NP遺伝子ノックダウンを行った胚の心房の幅・心室の面積、BrdUアッセイ等を解析し、心臓形成について詳細な解析を行った。
2) NP遺伝子ノックダウンによる浸透圧調節への作用を調べるために、胚の浸透圧(蒸気圧法)を測定し、イオン排出に必須な塩類細胞に発現するイオン輸送体、代謝(代謝水産生)に重要な5つの律速酵素の遺伝子発現への影響を定量PCRに調べた。血流を測定し、胚の浸透圧との相関を調べ、さらに、2,3-BDMで血流を抑制した胚の浸透圧も測定した。ノックダウン胚の水保持機構への影響を調べるために、胚の水分含有量を測定し、海水中の胚に発現する全てのアクアポリンを同定し、遺伝子発現レベルでの影響を調べた。

【結果】
1) BNP遺伝子は心室に発現し、心室形成期に発現が急激に高くなった。さらにBNP遺伝子ノックダウン胚は心室の心筋細胞の増殖が抑制され、心室のみが正常に発達しなかった。一方、CNP3遺伝子は静脈および心臓で発現し、心臓原基形成期に一時的な発現上昇が見られた。CNP3の受容体は心房で強く発現することが分かった。CNP3遺伝子ノックダウン胚は心房の顕著な肥大を示し、心房の正常な発達が著しく阻害された。
2) 海水中の胚において、BNPおよびCNP3遺伝子ノックダウン胚は高い浸透圧を示したが、イオン輸送体、代謝の律速酵素群には影響しなかった。しかし、BNPおよびCNP3遺伝子ノックダウン胚はいずれも顕著な血流の抑制が見られ、胚の血流速度と浸透圧には強い相関があり、血流の遅い胚は高い浸透圧を示した。さらに、CNP3遺伝子ノックダウン胚は水分含有量が少なく、顕著な脱水が見られ、アクアポリン3、4および9の遺伝子発現が上昇していた。

【考察】
CNP3は心房形成に重要なホルモンであり、BNPは心室発達に重要である。初期心臓形成は魚類から哺乳類まで共通であるため、NPの初期心臓形成における重要性は脊椎動物を通して重要な知見になると期待できる。さらに、BNPおよびCNP3が初期胚の循環調節に重要であり、正常な血流循環が正常な体液浸透圧維持に必須であることが証明された。さらにCNP3は海水適応時の胚で、アクアポリンを介する水透過性を調節し、脱水から胚を守ること分かった。これまでの知見と合わせると、NPが初期胚から成魚に至るまで海水適応機構に重要であると考えられる。